東京高等裁判所 昭和24年(う)447号 判決
被告人 柴平望
〔抄 録〕
原判決が主文第三項において、被告人から一万七百十三円を追徴する旨言渡し、右金額は被告人が原判示第一の(一)の事実によつて供与を受けた一万円と同(二)及び(三)の二回に亘つて受けた饗応の額四百八円及び三百五円の合計額であることは所論のとおりである。
よつて案ずるに、公職選挙法第二百二十四条が、同法第二百二十一条乃至第二百二十三条の二の犯罪によつて収受し又は交付を受けた金銭、物品その他の財産上の利益の中に交通費、宿泊費、弁当料等の実費弁償又は労務者に対する報酬に充てるべき部分が含まれていたとしても、これを区別できないときは、右利益は全体として不法性を帯び、全部について、没収又は追徴を免れないのである。ただ、犯人が収受し又は交付を受けた利益中の一部を、他の選挙人又は選挙運動者に供与し、その者から、その供与を受けた利益を没収し又は追徴し得る関係にあるときは、その額だけは、これを控除して没収又は追徴を科すべきであると解し得るのである。
本件について調査してみると、所論引用の副検事に対する被告入の第一回供述調査の記載中に、被告人が原判示第一の(一)の金員の供与を受けるに際し、自動車で上田市に行つた旨及び右金員中から酒代九百円を支払つた旨の部分があることはこれを認めることができる。しかし既に前記第一点及び第二点で説明したとおり、原判示第一の(一)の金員は、候補者に対する投票及び投票取り纒めのための報酬並びに運動資金であつて、たとえ選挙運動の実費又は報酬に充てるべき部分が含まれていたものと解するにしても、これを分別することができないものを認められ従つて全体として不法性を帯びるものと解し得るのであるし右被告人の供述調書全体の記載及び副検事に対する第二回供述調書の記載とを総合して考察すると、右上田市に往復するために被告人が使用した車馬賃は正当な選挙運動の実費と認めることのできない支出であり、酒代九百円の支出経過は、「私が銚子を十本追加したのは酔つて来て気持ちも大分大きくなり恰度上田から貰つて来た金がありましたので、皆に酒位出してやれと云う様な気持からやつた事であります、この事につきましては誰にも別に話してありません」(第二回供述調書中の記載)というのであり、これも亦正当な選挙運動の実費と目し難い支出であると共に、いずれも他の犯人から没収又は追徴すべきものとも認められないから、前記説明の理由によつて特にこれを追徴金額から控除すべきものとすることはできない。従つて、この点については原判決に事実誤認や法令適用の誤なく論旨は理由がない。